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法社会学とは,法を社会との関わりの中で捉え,法を通じて社会を考える知的営為,すなわち法現象を対象とした社会科学です。ここで社会科学とは,社会現象を対象とした,経験的に検証可能な論証に基づく,一定の合理性と系統性をもった認識作業であり,それを通じて社会についての知見と理解を深める学術活動です。その対象領域が政治である社会科学は政治学,経済である社会科学は経済学となるでしょう。そのような意味で法社会学は法に関する社会科学です。
法社会学の特質は,一般の法律学(実定法学・法解釈学)と比較することで別方向からも示すことができます。社会科学としての法社会学は,社会の中の法の現実の姿や,法と社会との関わり,そうした現実を規定する諸要因等々をデータに基づき分析・探求し,説明モデルや理論を考案するなどの中で,法現象や法と社会の関係について理解を深めようとする,まずは「事実」についての学です。これに対して法律学は,法規範・法体系のあるべき意味内容を検討し,それを根拠付ける「規範」の学です。またそれらを現実の事件や紛争に当てはめて主張を正当化し,また法的に妥当な解決をめざす,主として「技術」の学です。
とはいえ学問としては異なるとしても,両者が没交渉であることが好ましいわけではありません。法律学の知識なしに十全な法社会学研究を遂行することは不可能ですし,優れた法解釈や法実践には,社会実態や法の現実の機能についての知識や認識も求められます。法社会学は独立した学術実践であって法律学に知見を供給することを主任務とするわけではありませんが,優れた法社会学研究は法律学や法実務にとっても有益です。
日本法社会学会は,広範な分野を対象とし,多様な方法を用いて研究を行う,日本在住の法社会学研究者を中心に組織された学術集団です。自由闊達かつ開かれた法社会学研究活動のための基盤であることが,その存在理由です。
日本法社会学会をどうぞよろしくお願いいたします。
日本法社会学会理事長(2023~26年度)
馬場健一